人が病気になるとき、その心理的背景を深くみていくと、“病気をやることのメリット”が隠れている場合があります。

いきなりこう言われると、患者さんの中でも「なんとなくわかる気がします」という方もいれば、「やりたくてこんな病気をやっているんじゃない!」と反発する想いが出てくる方もいらっしゃいます。

私たちは病気に対して、「理不尽なもの」「自分は被害者だ」という立場に立つこともできれば、「自分が意図して創ったもの」という立場に立つこともできます。

そして、「自分がやりたくて病気をやっていた」ということを認めることができると、「自分で創った病気だから、自分でやめることもできる」という前提に立つことができます。どちらが正しくてどちらが間違い、ということはありませんが、自分の力で健康を回復していくためには、後者の立場を引き受けることが始めの一歩だと、私は多くの患者さんの姿から教えられたように思うのです。

病気を通して、何を得たいと思っていたのか?

ここでひとつ、病気の背景に隠されたメリットが存在していた事例をご紹介します。
※患者さんのプライバシーに配慮するため、実際にあったケースにもとづくフィクションとなっています。

10年以上、摂食障害に苦しんできた20代女性の患者さん。就職や友達づきあい、ましてや恋愛もできない状態でした。病院にはいつも、お母様が付き添われていました。

摂食障害が始まった時期や、食べている時に呼び起こされている記憶や想いを探っていくと、お母様に対する想いが見えてきました。それは「妹は親から愛されているのに、私は愛されていない」という想いでした。

その患者さんは長女で、小さい頃からずっと「妹は親に可愛がられて、好きなこともして自由に生きているのに、私は我慢しなくちゃいけない」「私は言いたいことを言ってはいけない」という想いを持たれていました。そして、その体験から母親に対する抑圧された怒りがあり、「摂食障害を続けることで、母親に復讐している」というメリットがあったことにご自身で気づかれていきました。

「それではこのまま病気でいることを選びますか?」という質問を私から何度かすると、そのたびに「いいえ、でも・・」という手放し切れない何かがあるようでしたが、そのたびに紐付いて出てくる記憶の処置をひとつひとつ丁寧に行っていきました。

そのプロセスの中で「親は私を愛してくれなかった」という想いが単なる信じこみであったこと、そして「私は本当は、これほどに愛されていたのだ」という気づきが起こっていったのです。

あれから2年がたち、現在は結婚され、お子さんを授かられています。

 

このケースでは、「病気を通して母親に復讐する」というメリットを実現していました。このように、誰か(主に家族)に復讐したり、誰かを責めるために病気を使っているというケースは珍しくありません。

ほかにも、病気によって自分自身を正当化したり、誰かの気をひいたり、強い自分を証明するなど、病気で実現されるメリットにはさまざまなケースがあります。

病気でなんらかのメリットを実現していた場合、その奥にはたいてい、”役に立たない信じこみ”があるものです。上の例では「私は親から愛されていない」という信じこみがありました。

ではそもそも、その信じこみは本当の本当に真実なのか?というと、実はそんな証拠はどこにもありません。その証拠もない信じこみを自分にとっての真実として採用し、その信じこみから、病気を発生させるメリットを得ていただけの話なのです。

病気を発生・継続させていたメリットや、その奥にあった役に立たない信じこみに気づくこと。病気はそのメリットを得るために自分が創っていたこと。

もしもあなたがなんらかの病気に悩まれているとしたら、このような視点から、病気や自分自身の内面と向き合われてみると、「病気の本当の原因」に気づけるかもしれません。