私が日頃から患者さんに、いつも口を酸っぱくしてお伝えしていることがあります。

それは、「自分の身体を医者まかせにしない」ことと「身体と対話することの大切さ」この2つです。

医者のホンネを言えば、なんでも言うことを聞いてくれる素直な患者さんの方がやりやすかったりもします。しかし、それが患者さんご自身にとってプラスに働くかといえば、そうではありません。

“治癒が困難と言われる病になっても、自力で病をやめていく人”とは、そんな素直な患者さんではないことが多いものです。

「過剰に受け身で、自己主張をせず、他人の顔色を伺ってばかりいる人は、免疫力が弱い傾向がある」という研究報告もあります(※1)。どうやら私たちの“態度”や“あり方”は、健康や病気に大いに関わっているようなのです。

自分で病気をやめる人とは、ある意味、医者からしたら“面倒な患者さん”とも言えるかもしれません。自分が納得いくまで質問をして、簡単に医者の言いなりにならない人ほど、自分で病気をやめていくものだと私は感じています。

病気は医者が治すもの?

「病気になったら、医者に治してもらう」
「身体のことは、医者の言うことを聞くのが一番」
「医者に言われた通りに薬を飲まないと治らない」

今の日本では、病気や医療に対してこのような考え方がまだまだ一般的ではないでしょうか。自分の身体のことなのに「自分の感覚より医者の言うことが正しい」「だから、医者の言うことを聞いた方がよい」という風潮があるようです。

医者の言いなりになるとき、人は自分の身体や健康に対して“受け身”の状態になっています。受け身とは、主体性やコントロールする力を自ら放棄する態度です。人には本来、自分で自分の身体を癒す力があるのに、その力を放棄して受け身になることは、病気からの回復を遠ざけてしまいます。

病気を自分でやめる人は、受け身ではなく主体的です。そんな人たちは、あくまでも「病気を治す、病気をやめるのは自分自身」と考えています。

もちろん、医者の意見やサポートが必要なときもあるでしょう。

それらの医学の力も利用しながら、自分の身体に起きたことをまず自分で受け止めて、それを「自分の身体がしっかり治す」という意識を持つことが重要です。あなたの身体と一生涯おつきあいするのは、他の誰でもなく、あなたしかいないのですから。

病気をやめるのは自分自身

「カウンセリングを受けたら、この病気は治るんですか?」という質問をする人が時々います。実はこの質問にも、その人の病気に対する受け身な思考パターンが表現されています。

主体的な人は「私は病気をやめるために、このカウンセリングを受けます」と言います。ちょっとした違いに見えますが、「病気を治していく主体は誰か?」という視点でみると正反対の態度であることがわかるでしょうか。

受け身の人は“病気が治る”という結果を相手(医者)に委ね、主体的な人は「病気をやめるのはあくまでも自分」という立場を取ります。この差が結果を分けていくのです。

受け身な人が主体的になっていくためには、こういった言葉の使い方に意識を向け、言葉を変えていくことから始めてみてほしいと思います。

薬は悪いもの?

私は長年、統合医療を実践してきたこともあり「薬は使わない方がいいでしょうか?」という質問を受けることも良くあります。特にステロイドなど副作用を気にする方が多い薬では「薬を使わずに治したい」と希望される患者さんも多いです。

意外に思われるかもしれませんが、私自身は「薬は悪いもの」とは決めていません。むしろ、薬の是非を議論することは、治療において遠回りする行為だと考えています。薬を使うか・使わないか?よりも目を向けるべきもっと大切なことがあるからです。

それは「なんのために、どのように薬を使うのか(使わないか)を、患者さん自身が主体的に決めているか?」ということです。ここがクリアになっていれば、結果的によい方向に向かうことが多い。逆に、医者や誰かの意見に振り回されて、自己決定できない状態だと、治療もうまくいきにくいように感じます。

身体と対話してみよう

病を自分の身体で治していく、自分の身体のことは自分で決めるためには“身体の声を聞く”ことが欠かせません。日頃から、自分の身体とじっくり対話する習慣ができると「これがしたい」「これが食べたい」という、身体が求めていることがわかるようになります。

健康なときは、自分の身体に必要なものが食べたくなり、それを「おいしい」と五感で堪能しながらいただけるようになるものです。

たとえば、食事のメニューを考えるとき「今日は何を食べようかなあ?」と、胃腸に相談することもできます。

私も、疲れている時などに無性に「豚肉料理が食べたい」と思うことがあります。これは豚肉に豊富に含まれる、疲労回復効果のあるビタミンB1を身体が求めているからなのでしょう。

身体の声との上手な付き合い方とは

とはいえ、時には「身体によくない」とわかっているものを欲しくなることもありますよね。

ジャンクフードや、夜遅くに消化の悪い物が食べたくなったりすることもあるかもしれません。胃腸の調子がすぐれない時は、そのような「本当は身体が求めていないもの」をほしいと感じることがあるのです。

その時の胃腸は、自分の身体に必要なものを選別できるアダルトな“胃腸さん”ではなく、チャイルドの“胃腸ちゃん”になっていると考えてください。胃腸に過剰な負担をかけるものが食べたくなるのは、後先を考えない子どもがワガママを言っているようなものです。

もちろん、子どものワガママだと頭ごなしに抑え付けてばかりでは、よい関係を作っていくことは難しいでしょう。例えば夜中に「おなかすいた〜。何か食べたいよ」という声が聞こえてきたら、「わかったよ、もう夜遅いし、消化のいいバナナでも食べようか」というように、チャイルドの胃腸ちゃんの声も受け入れつつ、身体に良い食べ物や食べ方を選んでいくこともできます。

最近は、健康に気を使うあまり、ストイックな食生活にこだわる人もいるようです。健康に気を配るのはもちろん素晴らしいことですが、身体の声を無視して無理しすぎることのないよう心がけてください。

例えば糖質制限をされている方などは「たまには白いご飯が食べたい」という身体の声が聞こえても「ダメダメ、白いご飯もうどんもパスタも、絶対に食べないと決めてるから」と強引に抑えつけてしまうことがあります。それが長く続くと「もう我慢できない!」と身体が反撃してリバウンドしたり、別のトラブルを発生させてしまうこともあります。

私たちの身体には、本来、“自分に必要なものを選ぶ力”が備わっています。その力を信頼し、身体の声に耳を傾けて、上手に付き合っていきましょう。

病気は自分で創ったことを引き受ける

病気や身体に対して主体的になる。それは極論を言えば「私の病気は、私自身が創ったものだ」と受け入れることです。

「そんなことはない!この病気は遺伝のせいだから私にはどうしようもないんです」「こんな病気、やりたくてやってるんじゃありません!」そう思う方もいるかもしれません。

しかし「病気は自分で創ったものだ」と受け入れてはじめて「病気は自分で創ったものだから、自分でやめることもできる」という立場を取ることができます。

どちらが正しくどちらが間違い、という答えはありませんが、あなたが望む未来を創るためにどちらの態度を選ぶか?は、あなた自身で決めることができるのです。

※1 The Relatinoship of Psychosocial Factors to Prognostic Indigators in Cutaneous Malignant Melanoma,”journal of psychosomatic Research 29,no2(1985)