病気の方の心理カウンセリングを行っていると、患者さんが出生する前後の「患者さんの母親の想い」が大きく影響しているケースが非常に多いと感じます。

その背景は千差万別で、患者さん一人一人にそれぞれのストーリーがあるのですが、イメージしやすいように、ひとつ具体例をあげて解説していきたいと思います。

たとえば女性の患者さんで、その方が生まれる前に、後継ぎなどの理由から男の子が望まれていたケース。その患者さんのお母さんは、妊娠前後から「男の子を産まなければ」と言うプレッシャーを感じ、そして妊娠発覚後、赤ちゃんが女の子だと判ると落胆したり、周囲の期待に沿えなかったことに罪悪感を感じたりします。

すると出生後、このような心理状態の母親に育てられた女性の中に「私は望まれた命ではない」「私が生まれたことで、お母さんを苦しめてしまった」「女性である私は価値がない」という想いが芽生えてしまうのです。

そのような自分の存在そのものや、自分の女性性を否定する想いが、病気の背景として隠れていることは珍しくありません。

上記に挙げたほかにも、出生前後の母親の想いが子どもへの影響しているケースとして、次のような事例が挙げられます。

  • 母親が家族のために自己犠牲する姿を見て育った
    →娘である私だけが幸せになるわけにはいかない。私が幸せになることは、母親の人生を否定することになる。
  • 母親は私のために離婚ができなかったと聞かされた
    →私は母の幸せを邪魔する存在。
  • 母親が父親から暴力を受けていた
    →女性は損だ。女は男から虐げられる。

母親の想いは、あなた自身の想いではない

この時に何が起きているかというと、子どもは無自覚のうちに「母親の想い=自分の想い」と同一化してしまいやすいということです。

通常の心理カウンセリングでは、クライアントさんご自身の記憶やそれに紐づく信じこみを扱っていくものですが、上記のように、幼少期の周囲の人間(特に親)の想いと自分の想いを同一化している場合は、その周囲の人の想いや記憶をも扱っていく必要があるということです。

介入方法としては、NLPのポジション・チェンジなどの手法を用いて、まずは当時の母親の想いに気づいていくことから始めていきます。

「ああ、私は自分が幸せになることに罪悪感を感じていたけど、その罪悪感のもとは、お母さんの想いを自分のものと同一化していたからだったのね!」

「でもそれって、お母さんの想いであって、私の想いではないのよね」

こう気づけると、次第に「母親の想い」と「自分自身の想い」が切り分けられていきます。

妊娠前後の家庭環境、妊娠や結婚に対する母親の想い、男女の性差に対する親族の想いなど、一見、直接的に繋がりが見えないものの中に、心理アプローチの成否を決める重要な鍵が隠されているものなのです。